賃貸住宅市場の裏側で、「家賃が必ず入ってくる仕組み」を支えてきたのが家賃債務保証ビジネスです。その業界黎明期から28年にわたり市場を牽引してきた日本セーフティーを中核に置き、持株会社として再編されたのがNSグループ株式会社です。今回、同社は東証プライム市場にダイレクト上場し、約400億円超規模のグローバル・オファリングを通じて、ファンドが保有してきた持分の大半を市場に開放します。本記事では、有価証券届出書に基づき、事業内容とオファリングの構造を整理したうえで、投資家目線での株価・需給の論点を考えていきます。
会社概要・事業内容
NSグループは、実質的な事業運営主体である日本セーフティー株式会社を傘下に置く持株会社です。日本セーフティーは1997年設立以来、家賃債務保証事業に特化してきたプレイヤーであり、連帯保証人を立てにくくなった時代のニーズを背景に、家賃保証サービスと集金代行サービスを提供してきました。
家賃債務保証は、不動産賃貸借において入居者の家賃支払を保証することで、オーナーや管理会社の家賃未収リスクや空室リスクを軽減すると同時に、入居者側には連帯保証人の手配を不要にする役割を果たします。NSグループはこの仕組みを通じて、毎月の保証料・手数料収入というストック型の収益モデルを構築しており、賃貸住宅市場のボリュームと家賃滞納率、与信管理の精度が収益性を左右する構造になっています。
2021年以降、ベインキャピタル系ファンドを中心とする投資家のもとで持株会社への組成や株式分割などのコーポレートアクションが行われ、2025年10月に現行のNSグループ株式会社に統合されました。今回の上場は、この再編プロセスの出口局面に位置付けられると理解できます。
IPO時のオファリング概要
証券コード: 471A
上場市場: 東京証券取引所プライム市場
業種: その他金融業(家賃債務保証事業を展開する子会社の経営管理等)
想定価格: 1,440〜1,730円(想定発行価格1,585円)
公募株数: 0株
売出株数: 23,129,900株
(国内売出株式数:16,480,000株、海外売出株式数:6,649,900株)
オーバーアロットメント: 3,469,400株
オファリング株数合計: 26,599,300株
想定公開規模:
・約383億〜460億円(想定仮条件レンジベース、OA含む)
・想定発行価格1,585円ベースで約421.6億円
時価総額(上場時想定):
・約751億〜902億円(1,440〜1,730円×52,155,600株)
・想定発行価格1,585円ベースで約826億円
仮条件決定日: 2025年12月1日
ブックビルディング期間: 2025年12月2日〜2025年12月5日
公開価格決定日: 2025年12月8日
購入申込期間: 2025年12月9日〜2025年12月12日
上場日: 2025年12月16日
主幹事証券: SMBC日興証券、大和証券、JPモルガン証券(共同主幹事)
株価についての考察
今回のNSグループのIPOは、オファリングレシオが約50%と高く、上場時発行済株式数の半分超が市場に放出される大型ディールです。全て既存株主による売出しで、公募増資はなく、会社としての新規資金調達は行われません。投資家から見ると「バイアウトファンドの出口案件」という色合いが濃く、需給の重さが初値・セカンダリーの株価形成に与える影響を慎重に見極める必要があります。
一方で、ビジネスモデル自体は、賃貸住宅市場をベースとしたストック型収益であり、景気変動に対して一定の耐性を持つと考えられます。与信管理の巧拙や回収プロセスの効率化によって利益率が変動するため、単純な「高配当安定株」というよりは、リスク管理とテクノロジー活用を通じてマージンを積み上げていく金融インフラ銘柄として評価される余地があります。
想定発行価格ベースの時価総額約826億円、吸収金額約421億円という水準は、同業他社や類似の保証・与信ビジネスと比較しても中〜大型ゾーンに位置づけられます。PERやPBRの詳細な比較は公開価格決定後のテーマになりますが、ファンドのイグジット案件としてはプレミアムが抑えられているのか、それとも割高感があるのかという点が、機関投資家の議論の中心になるはずです。
当該IPOの特殊なポイント
本案件の最大の特徴は、第一に完全売出しであること、第二にグローバル・オファリングであること、第三にオファリングレシオが約50%と非常に大きいことの三点です。これにより、ベインキャピタル系ファンドをはじめとする大株主の持分が大きく流動化し、支配構造が市場フリーフロート寄りにシフトする点は、コーポレートガバナンスの観点ではポジティブに評価できる一方、短期的な需給負荷という意味では慎重な見方も成り立ちます。
また、海外投資家向けに約665万株が配分されるグローバル・オファリングとなっている点も、日本の家賃債務保証ビジネスとしては珍しいスキームです。これにより、インカム性の高い金融インフラ銘柄を好む海外機関投資家のレーダーに乗る可能性が高まります。上場後の株主構成が国内個人主体なのか、海外機関が厚く入るのかによって、中長期の株価ボラティリティやガバナンスの質が変わり得る点は注目ポイントです。
さらに、2025年10月に1株→2株の株式分割を実施したうえで上場に臨んでおり、流動性確保と個人投資家の参加しやすさを意識した設計になっています。結果としてBBでの当選口数も多くなる見込みで、初値形成は需給と投資家層のバランスに大きく左右される案件だと考えられます。
まとめ
NSグループのIPOは、家賃債務保証というニッチながら社会インフラ性の高いビジネスを、大型のグローバル・オファリングとともに市場に乗せるディールです。事業としては、賃貸住宅市場の構造的な需要とストック型収益モデルを背景に、安定性と成長性の両方を持ち合わせたテーマと言えます。一方で、完全売出し・高オファリングレシオという需給面の重さ、そしてバイアウトファンドの出口案件であることをどう評価するかが、このIPOを見極める際の最大の論点になります。
短期的には需給とセンチメントに振られやすい一方、中長期では家賃保証という金融インフラのポジションを軸に、どこまで収益性とガバナンスを磨き上げられるかが株価の帰趨を左右することになるでしょう。個人投資家としては、安定ビジネスへの長期投資の観点と、大型売出し案件としてのリスクの両面から、この案件を丁寧に捉えることが重要だと考えます。



